――「つくる会社」から「事業を成立させる会社」へ
建設会社の仕事は、完成した図面を受け取り、見積書を提出するところから始まる。
これまで建設業において当たり前でした。
発注者が事業を考え、設計者が図面を描き、施工会社がそれを形にする。役割分担としては分かりやすく、一見すると合理的な仕組みです。
しかし、実際の建設プロジェクトを振り返ると、工事が始まってから発生する問題の多くは、工事そのものよりも、その前の段階に原因があります。
「そもそも、この建物を何に使うのか」
「法令上、実現できる計画なのか」
「設備や構造に無理はないか」
「工事費に見合う事業になるのか」
こうした条件が十分に整理されないまま設計や工事が進めば、後になって計画変更や追加費用が発生します。
だからこそ、これからの建設会社には、単に図面どおりにつくるだけではなく、計画の早い段階からプロジェクトに関わる姿勢が求められると、私たちは考えています。
■「施工できる」と「事業として成立する」は違う
技術的に施工できる計画であっても、それが発注者にとって最善の計画とは限りません。
用途によって必要となる設備や法令上の条件は変わります。初期費用を抑えられても、維持管理費が大きくなることもあります。既存建物を活用する場合には、図面だけでは分からない条件や、工事を始めて初めて明らかになる問題もあります。
建設プロジェクトでは、正解が最初から一つに決まっているとは限りません。
複数の選択肢を比較し、それぞれの工事費、実現性、リスク、将来性を整理したうえで、発注者が納得して方向性を選ぶ。その過程自体が、工事と同じくらい重要です。
施工会社には、実際につくる立場だからこそ分かることがあります。
どこまでが現実的なのか。
どこに費用が掛かるのか。
どの部分にリスクが潜んでいるのか。
完成後にどのような維持管理が必要になるのか。
これらを計画の初期段階で伝えることができれば、発注者は、より確かな判断を行うことができます。
■AIが、企画とコンサルティングを民主化する
生成AIの急速な進化は、文章作成や情報検索を効率化するだけのものではありません。
市場データの収集、社会動向の分析、事業案の比較、収支条件の整理、リスクの洗い出しなど、これまで専門的な調査会社やコンサルティング会社に依頼していた業務の一部を、各企業が自ら行える時代が始まっています。
少し極端に言えば、社会科学やコンサルティング業界が長年担ってきた、情報を集め、分析し、仮説を立て、提言をまとめるという仕事の相当部分は、AIによって再構成される可能性があります。
もちろん、学問そのものや専門家の知見が不要になるわけではありません。
しかし、専門的な情報や分析手法を一部の組織だけが保有する時代は、大きく変わろうとしています。
これまでは、十分な調査部門を持つ大企業や、高額な費用を負担できる企業だけが、詳細な市場分析や事業戦略の検討を行うことができました。
これからは、各業界の現場を知る実務家がAIを使いこなすことで、自ら情報を収集し、比較し、仮説を立て、事業の方向性を考えることができます。
いわば、コンサルティング能力そのものが民主化される時代です。
この変化が意味するのは、単に既存のコンサルティング会社の仕事がAIに置き換わるということだけではありません。
建設、不動産、製造、物流、医療、教育など、それぞれの業界に蓄積された実務の知識と、AIが持つ分析能力が結び付くことで、業界そのものの在り方が変わる可能性があります。
外部の専門家から提案を受けるだけではなく、各企業が自らの業界を再設計する側に回る。
そのような変化が、既に始まっています。
■建設会社だからこそできるコンサルティングがある
建設会社は、建物をつくる技術だけを持っているわけではありません。
実際の工事費、施工方法、工期、法令、設備、構造、維持管理、専門工事会社の実情など、建物を現実に成立させるための多くの情報を持っています。
一方で、従来の建設会社は、こうした知識を工事の受注や施工のために使うことが中心でした。
しかし、AIによって市場調査や事業分析への入り口が広がれば、施工会社が持つ現場の知識と、社会や市場のデータを組み合わせることができます。
例えば、既存建物の活用を考える場合でも、単に改修工事の金額を算出するだけではありません。
地域の人口構成、周辺施設、競合状況、想定利用者、収益性、必要設備、法令上の条件、改修費、将来の維持管理までを横断的に検討し、複数の活用案を提示することが考えられます。
ここに、これからの建設会社が担うことのできる新しい役割があります。
一般的な市場分析だけでは、実際にその計画が施工できるかどうかまでは分かりません。
反対に、施工の知識だけでは、その建物が事業として成功するかどうかを判断することはできません。
AIを活用しながら、事業、市場、設計、施工、維持管理をつなぐ。
建設会社だからこそできる、実務に根差したコンサルティングがあると、私たちは考えています。
■設計者や専門家の代わりではなく、分野をつなぐ存在になる
施工会社が計画の上流から関わることは、設計者や事業コンサルタントの領域を奪うことではありません。
むしろ、それぞれの専門性をつなぐことに意味があります。
発注者が思い描く事業を、設計者が空間や図面に置き換え、施工会社が工法や費用に置き換える。さらに、設備、構造、消防、行政、専門工事会社などの知見を集め、実現可能な計画としてまとめていく。
AIは、こうした専門家に代わって最終的な責任を負うものではありません。
しかし、多くの資料や条件を整理し、検討の漏れを減らし、複数案を比較するための強力な道具になります。
重要なのは、AIに結論を任せることではなく、AIによって得られた情報を、現場を知る人間が判断することです。
これからの建設会社には、発注者、設計者、専門家、施工者、そしてAIをつなぐ「翻訳者」としての役割が必要です。
■工事前の検討も、専門的な仕事である
建設業界では、現地調査、概算見積、企画提案、法令確認などが、工事を受注するための無償サービスとして扱われることがあります。
しかし、本来これらは、経験と知識を必要とする専門的な業務です。
AIによって情報収集や資料作成が効率化されても、現地の条件を確認し、どの情報を採用し、どのような計画としてまとめるかについては、専門的な判断が必要です。
十分な調査や検討を行わず、早い段階で安価な工事金額だけを提示すれば、計画が具体化した後に費用が増えたり、実現できない条件が判明したりする可能性があります。
反対に、初期段階で必要な費用を掛けて条件を整理すれば、工事着手後の手戻りを減らし、発注者と施工会社の双方がリスクを抑えることができます。
「工事をいくらで行うか」を考える前に、「何を、どのような条件で実現するのか」を整理する。
この順序を守ることが、建設プロジェクトの質を高めます。
■価格を競う会社から、判断を支える会社へ
建設会社同士が技術と価格を競うことは必要です。
しかし、提示された図面から工事金額を算出し、最も安い会社を選ぶだけでは、建設会社が持つ知識や経験を十分に生かすことはできません。
これからの建設会社が競うべきなのは、工事金額だけではないはずです。
発注者がまだ言葉にできていない課題を見つける力。
複数の可能性を比較する力。
見えないリスクを早期に示す力。
市場や社会の変化を読み取る力。
計画を現実の工事へ落とし込む力。
そうした能力によって発注者の判断を支えることが、建設会社の新しい価値になります。
私たち萬世建設も、AIを単なる業務効率化の道具として捉えているわけではありません。
AIによって広く利用できるようになった調査、分析、企画、提案の力と、私たちが長年の工事を通じて蓄積してきた現場の知識を結び付ける。
そして、「決められたものをつくる会社」にとどまらず、お客様とともに何をつくるべきかを考え、事業の構想から施工、完成後までを見据えた提案のできる会社を目指します。
建物を完成させることは、それ自体が最終目的ではありません。
その建物によって、事業や暮らし、社会の活動がより良いものになること。それこそが、建設の本当の目的です。
AIによってコンサルティング能力が広く開かれる時代に、建設会社は何ができるのか。
私たちは、その問いにいち早く向き合い、未来の建設業の在り方を自らつくっていきたいと考えています。

